ホテルにおける「カスタマージャーニー(顧客の旅)」とは、ゲストがあなたのブランドとどのように関わるかという物語の全容を指します。それは、ゲストが到着するずっと前から始まり、出発した後も長く続きます。これは、ゲストがあなたのホテルに対して抱く、あらゆる些細な瞬間、感情、そして印象の積み重ねです。この旅(ジャーニー)を理解することは、もはや「あれば良い」ものではなく、「不可欠」なものです。それは、ビジネスを成功へと導き、ゲストをリピーターとなる熱心なファンへと変える助けとなります。
ホテル・カスタマージャーニーとは何か?
ホテル・カスタマージャーニーとは、ゲストのあなたのホテルでの体験にまつわるすべての物語です。それは、彼らが初めてあなたのホテルの名前を耳にした瞬間から始まり、チェックアウトした後も長く続きます。これは、ゲスト側の視点に立ち、一つひとつの瞬間が次の瞬間に影響を与えていく、一連の連鎖として捉えるものです。
この旅は、単に客室を予約することだけではありません。SNSや口コミ、あるいはウェブサイトなどであなたのホテルを目にするあらゆる機会が含まれます。質問のための電話、実際の滞在、そして旅行後に写真をシェアすることさえも、その一部です。これらすべての瞬間が、ゲストを喜ばせるチャンスであり、同時に失望させてしまうリスクでもあります。優れたカスタマージャーニーは、スムーズでパーソナルなものです。ゲストを単なる「予約番号」としてではなく、特別で大切にされていると感じさせるものなのです。
なぜホテリエにとってカスタマージャーニーが重要なのか
多くのホテルは、実際の「滞在」にすべての努力を注ぎ込んでいます。もちろんそれは重要ですが、パズルの一片に過ぎません。それ以外の部分を無視すれば、予約の機会や収益を逃すことになります。旅全体に目を向けることで、大きな違いが生まれます。
カスタマージャーニーをしっかりと計画すれば、競争の激しい市場で際立つことができます。各段階でゲストが何を必要としているかを知ることで、より良く、よりパーソナルな体験を提供できるようになります。満足したゲストは素晴らしいレビューを残し、友人に伝えます。そして、再び戻ってくる可能性も高まります。これこそが、長期的な成功への鍵です。
さらに、ジャーニーを理解することで、マーケティングの効果も高まります。適切な旅行者に、必要なものを、必要なタイミングで届けることができるようになります。例えば、誰かが旅行を計画している段階であれば、特別なオファーや、彼らの疑問に答える情報を送ることができます。このパーソナルなタッチが予約を増やし、ロイヤルティの高いゲストを育てます。つまり、ジャーニーに注力することは、単に部屋を埋めることではなく、関係性を築くことなのです。
ホテル・カスタマージャーニーの各段階
ホテルのカスタマージャーニーは、6つの主要な段階に分けることができます。各段階でゲストは異なるニーズや感情を抱いており、ホテル側には彼らとつながるための特定の機会(オポチュニティ)が存在します。
夢を見る段階・認知(Dreaming & Awareness)
ここがすべての始まりです。その人はまだ具体的にホテルのことを考えてはおらず、ただ旅行や新しい冒険を想像している段階です。Instagramをスクロールしたり、旅行番組を見たり、友人と旅行の話をしているかもしれません。「もし行けたら?」という初期の段階にいます。
- ゲストの感情: ワクワク感、インスピレーション、好奇心。
- ホテルの機会: 彼らが夢を見ている場所に姿を現しましょう。SNSでホテルや周辺地域の美しい写真や動画をシェアします。近くで楽しめるクールな体験についてのブログ記事を書きましょう。あなたの仕事は、彼らの意識に入り込み、その最初の「旅行への熱意」の一部となることです。
計画・検討(Planning & Consideration)
今、夢は計画へと変わりました。行き先は決まっており、積極的に宿泊先を探しています。彼らはレビューを読み、価格を比較し、さまざまなホテルのウェブサイトを見ています。「なぜ他のホテルではなく、あなたのホテルを選ぶべきか」を見極めようとしています。
- ゲストの感情: 選択肢の多さに圧倒されつつ、最高の価値と自分に合う場所を見つけることに集中している。
- ホテルの機会: 素晴らしい第一印象を与えましょう。ウェブサイトはナビゲーションが簡単で、高品質な写真と明確な情報が必要です。ゲストのレビューや、あなたのホテルの特別な点を紹介しましょう。明確でシンプルな予約エンジンを使用してください。この瞬間こそが、信頼を築き、あなたのホテルが正しい選択であることを証明する時です。
予約(Booking)
いよいよ現実のものとなります。ゲストはあなたのホテルを選び、予約する準備ができています。彼らは自分の時間とお金をあなたに託そうとしています。
- ゲストの感情: 安堵と希望が入り混じっています。旅行を楽しみにしていますが、予約が安全かつ正確に行われたかという安心感も求めています。
- ホテルの機会: 予約プロセスを超簡単にしましょう。予約システムは、特にスマートフォン上で高速に動作する必要があります。予約直後には、明確な確認メールを送信してください。このメールは単に予約を確認するだけでなく、これからの滞在への期待を高めるものであるべきです。
滞在前(Pre-stay)
予約から到着までの期間は、つながりを築くチャンスです。ゲストは期待を膨らませ、旅行の詳細を詰めています。
- ゲストの感情: 興奮が高まっています。チェックイン、アメニティ、現地のクティビティについて質問があるかもしれません。
- ホテルの機会: ここでこそ、真価を発揮できます。到着の数日前に、パーソナライズされたウェルカムメールを送りましょう。周辺地域でできることについての役立つ情報を提供します。アップグレードや、スパトリートメント、特別なディナーなどの追加サービスを提案しましょう。これにより、ゲストは大切にされていると感じ、期待感を醸成できます。
体験・滞在(Experience & Stay)
これぞジャーニーの核心、ホテルでの実際の滞在です。ドアをくぐった瞬間からチェックアウトするまでのすべてが含まれます。
- ゲストの感情: 彼らは夢見ていた旅行を実際に体験しています。すべての挨拶、清潔な部屋、快適なベッドが、彼らの感情を形作ります。
- ホテルの機会: チェックインをスムーズでフレンドリーなものにしましょう。部屋は一点の曇りもなく清潔に保ちます。スタッフはいつでも助けられる態勢でいるべきです。ウェルカムノートや小さなギフトのようなちょっとした心遣いが、大きな意味を持ちます。モバイルキーやルームサービス用アプリなどのテクノロジーを活用して、利便性を高めましょう。
滞在後・推奨(Post-stay & Advocacy)
ジャーニーはチェックアウトで終わりではありません。これは、つながりを保ち、将来の予約につなげ、肯定的なレビューを獲得するチャンスです。
- ゲストの感情: おそらく旅行を懐かしく思い、友人や家族と写真を共有しているでしょう。
- ホテルの機会: 出発の1〜2日後に、フレンドリーなフォローアップメールを送りましょう。滞在はどうだったかを尋ね、TripAdvisorやGoogleへのレビュー投稿を丁寧に依頼します。彼らのフィードバックは本当に役に立ちます。時折メールを送ったり、次回の訪問に向けた特別オファーを提供して連絡を取り続けましょう。彼らは今やあなたのブランドのアンバサダー(推奨者)であり、優れた滞在後体験は、彼らをロイヤルティの高いリピーターへと変えることができます。
ホテル・カスタマージャーニーマップの作成方法
ジャーニーマップの作成は、チーム全体がゲストの視点で世界を見るのに役立つ強力な演習です。以下に、始めるためのシンプルな方法を紹介します。
1. チームを集める
これは一人で行うプロジェクトではありません。マーケティング、フロントデスク、セールス、マネジメントなど、異なる部署から人を集めましょう。各チームメンバーは、ゲスト体験の異なる部分について独自の洞察を持っています。
2. ゲストのペルソナ(人物像)を定義する
あなたの主なゲストは誰ですか?ビジネス旅行者、休暇中の家族連れ、あるいはロマンチックな旅行中のカップルでしょうか?彼らに名前とストーリーを与えてください。彼らの動機や悩み(ペインポイント)を理解することが不可欠です。
3. すべてのタッチポイント(接点)を特定する
ゲストがあなたのホテルと接するあらゆる瞬間をリストアップしてください。Facebookで広告を見るところから、ロビーでメニューを読むところまで、すべてを含みます。何も漏らさないようにしましょう。
4. 段階をマップ化する
先ほど説明した6つの段階ごとに列を設けたシンプルなチャートやボードを作成します。各段階の下に、特定したタッチポイントを追加していきます。
5. ゲストの立場に立つ
各タッチポイントについて、ゲストの視点から一連の質問を投げかけます。
- ゲストはここで何をしようとしているのか?
- 彼らは何を感じているのか?
- 彼らの悩みや不満は何か?
- 彼らの期待は何か?
6. 改善の機会を見つける
ゲストジャーニーマップを見ながら、ゲストにとって物事をより簡単に、あるいはより良くできる場所を見つけてください。それは予約フォームの簡素化かもしれませんし、テレビ画面にパーソナルなウェルカムメッセージを表示することかもしれません。このマップから新しいアイデアを生み出し、最も大きな違いを生む変更に焦点を当てましょう。
結論
ホテル・カスタマージャーニーは単なる概念以上のものです。それは、成功する、ゲスト中心のホテルを構築するためのフレームワークです。視点を「サービスの提供」から「体験の創造」へとシフトすることで、ゲストとより深いつながりを築き、ロイヤルティを喚起し、彼らの心の中でトップチョイスとしての地位を確固たるものにすることができます。今日から、ゲストの目を通してあなたのホテルを見ることを始めましょう。そこで気付くことに、きっと驚かされるはずです。